Up 「神の病 kamui siyeye」 作成: 2018-11-17
更新: 2019-02-04


      砂沢クラ (1983), pp.32,33
     川村の家はほうそう(天然痘) の神さまにも守られていたそうです。
    昔、ビッシレフチというおばあさんがほうそうで死ぬ時「これからは、私たちの村に悪い病気がはやりそうになったら、村の上をトエッ、トエッと鳴きながら飛ぶ。そうしたら、何か野菜を焼きなさい。その煙が立ったら、悪い病気の通る道を曲げてあげる」と言い残しました。
     ほうそうはカムイシエエ (神の病) と言われて恐れられた病気で、昔は、一村全部が死に絶えるということがたびたびあったそうです。
     「川村の子孫は、村の上を大きな鳥がトエッ、トエッと鳴いて飛んだ時には野菜を焼き、ビッシレフチをおがんだので、ひとりもほうそうにかからなかった。そのうちウエボソ (種痘) で、みな、死ななくなった」と、エカシ [川村モノクテ] はいつも話していました。


      Munro (1962), p.25 (p.37)
    The seventh class, the kamui of pestilence, ar e all held to be malignant, but one was so overwhelmingly frightful that no Ainu dared to call it an evil spirit, just as none dared to call their swordbearing masters cruel.
    七番目に位するのは疫病をもたらす〈カムイ〉たちで、彼らはすべて邪悪なものとされており、この〈カムイ〉たちはどうしょうもない程に怖れられているため、誰もがその忌まわしい名前を口にすることさえはばかっていました。
    ちょうどそれは、腰に刀を差した(さむらい)に向かって、「あんたは残酷な人だね」とは言わないようにするのと同じ気持ちだったのでしょう。



    引用文献
    • 砂沢クラ, 『ク スクップ オルシペ 私の一代の話』, 北海道新聞社, 1983
    • Munro, Neil Gordon (1962) : B.Z.Seligman [編] : Ainu Creed And Cult, 1962
      • Columbia University Press /NewYork
      • 小松哲郎[訳]『アイヌの信仰とその儀式』. 国書刊行会. 2002