疱瘡 (天然痘) は、ウイルス感染症の一つ。
病原体ウィルスを,天然痘ウイルス (Variola virus) と呼ぶ。
人から人への感染は,
- 飛沫感染が主である。──感染者からの飛沫や体液が口、鼻、咽頭粘膜に入る事で感染する。通常は約1.8m以内の範囲で感染する。
- また、感染者によって汚染されたもの、例えば布団や衣類などに触れても感染する。
- 稀に建物やバスのような密閉空間で空気感染する場合もある。
種痘
- 「牛痘法」(Edward Jenner, 1749-1823)
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山内一也 (2018), p.155
20世紀にウイルス学が始まってまもなく、天然痘ワクチンに含まれるウイルスは牛痘ウイルスではないことがわかり、ウイルス研究者を驚かせた。
このウイルスは、ワクチンになっていたことからワクチニアウイルスと名付けられた。
しかし、ワクチニアウイルスと共存する真の宿主動物が見つからなかった。
ワクチニアウイルスの起源は長い間謎のままだったが、ゲノムの時代になって解明された。
ワクチニアウイルスは、世界各国で長年にわたって継代されてきた結果、多くのウイルス株に分かれていた。
一方、馬痘ウイルスは、1976年にモンゴルで初めて分離され、2006年にそのゲノムが解読された。
これらのウイルスのゲノムを比較した結果、馬痘ウイルスがワクチニアウイルスのグループの一つであることがわかった。
また、2017年に米国のワクチンメーカーで1902年製造の天然痘ワクチンが発見され、それに含まれるウイルスのゲノムを解析したところ、馬痘ウイルスとほとんど同一だった。
つまり、ジェンナーが牛痘と言っていたのはウシに感染した馬痘ウイルスだったのである。
なお、馬痘ウイルスは本来はウマのウイルスではなく、牛痘ウイルスと同様に齧歯類と共存するウイルスと考えられている。
なぜ、異なるウイルス由来のワクチンが効果を発揮したのだろうか。
それは、ワクチニアウイルスのゲノムには天然痘ウイルスの遺伝子がすべて含まれているためである。
その結呆、ワクチニアウイルスが天然痘の予防に役立ったのだ。
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同上, p.152
天然痘ウィルスは媒介者 (無症候性キャリア) が存在していることになるが,これは知られていない。
天然痘ウイルスは,いまでは根絶されたことになっている。
(1980-05-08, 世界保健機構による撲滅宣言)
撲滅宣言に合わせて種痘もやめられた。
よって現代人は,天然痘ウイルスの免疫をもっていない。
- 引用文献
- 山内一也 (2018) :『 ウイルスの意味論──生命の定義を超えた存在』, みすず書房, 2018.
- 参考Webサイト
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