Up 4月22日 作成: 2024-12-09
更新: 2024-12-09




      『菅江真澄全集 第2巻』(未来社, 1971). pp.150,151
    さきだちて蝦夷人(アヰノ)の、としは、みそぢあまりなるが、七八ばかりの童子(へカチ)ひとりを誘ひてゆく。
    このへカチ、岨に生ひたる卯つ木を手折、おし曲て(グウ)に造り、木の皮をよりて弦として、親のまねびをぞしたりける。 ヘカチとてさらにたがふけぢめこそあらね、たゞ泉郎(あま)の子のやうにて色黒きわらはなれど、(シキ)のまろまろとして耳に朱なる糸つけたれば、一めにしるし。
    蝦夷人、をさなきころ(ケム)に紅のいとをつけ、耳鐶(インガレ)(ミミカネ)をさしてん料にまづこの(ケム)もて(キシヤラ)をさしつらぬくに、血のながるゝを見て、ことわらはぺどもの、おどろきこりてなきさまよへば、血の色もひとつに、紅の糸とのみ見なさしめんため、みな、かくぞはかりけるとなん。
    はたインガレのかはりに、紅のいと、紅の絹など、さきよりてさしむすびたるもありけり。