Up 中山間地域の消滅 作成: 2024-09-19
更新: 2024-09-24


読売新聞, 2024-09-23



    中山間地域は,消滅に向かう。
    ひとは中山間地域の消滅を「日本的なものの消滅」のように思って,これを惜しむ。
    しかしいまの中山間地域は,昔の中山間地域──日本の伝統的な中山間地域──とは,似て非なるものである。


    昔の中山間地域は,生活がそこで閉じていた。
    実際,そこは一生を送るところだった。
    そこを出ることは隣の領地──さらには隣国──に入ることだったからである,


    いまの中山間地域は,町の(いち)と車道で繋がっていなければならないところである。
    町と行き来する車が,生活の足だからである。

    よっていまの中山間地域は,車道が塞がると孤立する。
    昔の中山間地域は,生活がそこで自足するものであったから,そもそも「孤立」云々の話にはならない。
    しかしいまの中山間地域は,自然災害の度に「孤立」が問題になる。

    中山間地域は,孤立から守り救わねばならないところとして存る。
    中山間地域を孤立から守り救うものは,国の財政である。
    中山間地域は,国の財政で生かされて存る。
    そして財政は,この構造を負担にしていく。
    「守り救う」は,財政の余裕・プライオリティと見合うものになる


    中山間地域は,以上の不都合から,消滅へ向かう。
    不都合は構造的なものであり,どうしようもない。
    「中山間地域を消滅させるな!」と言うことは,「そこで自閉して生きろ!」と言うことなのである。

    中山間地域を抱える自治体は,外からの人の移住を呼びかけている。
    しかし,外から移住してくる者は,「日本の懐かしい風景」を勘違いしたリタイア組か,「日本的」を勘違いした外国人かである。
    そして彼らが自分の勘違いを知ることになるのに,長い時間は要しない。