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浜 六郎 (2009)
重症化はサイトカインストームのため
まず、インフルエンザのふつうの経過をみてみましょう。
外から進入し鼻やのどの粘膜の細胞で増殖するウイルスに対し、人の身体は、発熱とともにインターフェロンなどサイトカインを出してやっつけます。
熱がピークに達した頃には、身体の中のウイルスはすでに減り始めているのです。
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つぎに、インフルエンザの重症化がどのように起きるのかを見てみましょう。
ウイルスが居やすい体の環境があると、ウイルスが増殖します。
そこで、増殖したウイルスをやっつけるために、体はより高い熱を出し、体内からインターフェロンなどサイトカイン類がさらにたくさん (過剰に) 出します。
これをサイトカインストームといいます。
過剰なサイトカインは、自分自身の身体まで攻撃するようになります。
ふだんは健康なひとが、ウイルスが増殖しやすい体内の環境に陥りやすいのは、過労状態や睡眠不足、体温の低下、非ステロイド解熱剤などを使用した場合です。
とくに、解熱剤を使いながら仕事を続けて過労状態になり、高熱を非ステロイド解熱剤で下げると、インフルエンザウイルスの絶好の増殖環境になります。
その結果サイトカインストームが起こり、心筋や肺、肝臓、脳、腎臓など、身体のいろんな臓器が侵されて重症化します。
心臓は劇症型心筋症に、肺は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や肺炎に、肝臓は脂肪肝を伴う劇症肝炎に、脳は脳症や脳炎に、腎臓は腎不全となります。
血液系(播種性血管内凝固症候群:DICによる出血) や消化管(出血)、筋肉(横紋筋融解症)の障害なども生じることがあります。
多臓器不全は、死亡につながる危険な兆候です。
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木戸博 (2011)
インフルエンザ感染の重症化は、「インフルエンザ−サイトカイン−プロテアーゼ」サイクルによって引き起こされる。
特に、このサイクルが回転しやすい臓器が、肺、血管内皮、脳で、中でも血管内皮細胞でこのサイクルが回転すると、
基礎疾患として血管内皮細胞に障害のある患者、
エネルギー代謝に弱点を持つため、血管内皮細胞障害の現れやすいヒト
が重症化する。
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インフルエンザ感染による重症化、具体的には肺水腫、脳浮腫、多臓器不全の病態には、血管膜の透過性亢進が背景にある。
インフルエンザ感染に対する生体応答を、図1に示す。
最も早い生体応答が、炎症性サイトカインのTNF-α、IL-6、IL-1β等の誘導で、感染後1〜2日をピークに増加して、続いて起こる様々な生体反応の引き金を引く。
その一つが生体防御系(自然免疫系、獲得免疫系)の発動で、感染初期の細胞性免疫系と感染4日以後の抗体産生の誘導に代表され、これらの生体応答によってウイルスは体外に排除される。
一方、これらのサイトカインは、生体防御系の発動以外に、体内蛋白質分解酵素のtrypsinとmatrix metalloprotease-9(MMP-9)の発現誘導を、全身の臓器と細胞で引き起こしていることが明らかになった。
蛋白質分解酵素の遺伝子を持たないインフルエンザウイルスにとって、trypsinはウイルスの感染と増殖に不可欠な宿主因子で、ウイルス膜蛋白質のヘマグルチニンを分解して、膜融合活性を導き出す。
ウイルス感染によって、蛋白質分解酵素のtrypsinとMMP-9が全身の血管内皮細胞や臓器で増加すると、血管内皮の異常な透過性亢進、ウイルスの臓器内侵入と増殖の準備状態が整うことになる。
図2は、「インフルエンザ−サイトカイン−プロテアーゼサイクル」と血管内皮細胞障害の関係を図示したものである。
ウイルス感染でサイトカインが誘導され、次いでサイトカインでプロテアーゼが誘導され、プロテアーゼがウイルス増殖を促進するサイクルが回転して、血管内皮細胞の透過性の亢進から多臓器不全に発展する、われわれの提唱している説である。
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糖尿病、人工透析患者など、すでに血管内皮細胞に障害のあるヒト以外に、インフルエンザ感染時の上記の一連の現象による障害の受けやすい体質が明らかになってきた。
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引用Webサイト
- 浜 六郎 (2009) :「インフルエンザ:死亡はタミフルでは防げない」
https://npojip.org/sokuho/090909.html
- 木戸 博 (2011) : 講演「インフルエンザの重症化機序と予防と治療の最新知見」
http://www.hhk.jp/gakujyutsu-kenkyu/ika/111215-070000.php
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