ヒト感染の新型インフルエンザAウィルスは,カモ由来と目されている。
ただし,ヒトの細胞は,カモウィスルの HA に対し感受性がない。
よって,ヒト感染の新型ウィルスの出現では,カモからヒトへウイルスを媒介している者の存在を,考えることになる。
仲介者の条件は,《ヒトウイルスのHA とカモウイルスのHA の両方に感受する細胞をもつ》である。
この細胞の中でヒトウイルスとカモウイルスの両方の遺伝子が混合して分節再集合するとき,変異株ができることになり,それが新型インフルエンザウイルスだということになる。
その媒介者は,アヒル,ニワトリ,ブタと目されている。
即ち,カモウイルスがヒト感染新型ウイルスに変化する経路が,つぎのように考えられている:
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喜田宏 (1993), p.156
ヒトの新型インフルエンザAウイルス株は,いずれもヒトのウイルスと他の動物宿主のウイルスの間で遺伝子分節が再集合することによって誕生し,ヒトの間に出現したものと考えられる.
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喜田宏 (1993), pp.154,155
筆者らは1968年に新型ウイルスとして出現した A/Hong Kong(HK)/68(H3N2) のHA遺伝子について,その起源とこれがヒトに導入された経路を解明するために,鳥類,動物およびヒトのインフルエンザの疫学調査とウイルス遺伝子の解析を行なった.
研究成績から得られた結論は次の通りである.
A/Hong Kong/68(H3N2) のHA遺伝子は,ワタリガモ(渡り鴨)の H3インフルエンザウイルスに由来する.
カモの腸管上皮細胞で増殖し,糞便とともに排泄されたウイルスは,中国南部で水を介してアヒル(家鴨) に伝播した.
アヒルが排泄したウイルスはさらにブタに伝播した.
ブタはそれまでの流行株であったアジア型 (H2N2) ウイルスにも感染し,その呼吸器の上皮細胞で両ウイルスの遺伝子が再集合して A/Hong Kong/68 (H3N2) 株が誕生した.
次に筆者らは,感染実験によって,ブタの呼吸器が,ブタまたはヒトのウイルスとトリのウイルスの間の遺伝子再集合体を産生する "mixing vessel" の役割を演ずることを証明した.
さらに,今後の新型ウイルスの出現予測に資するため,異なるHA亜型 (H1〜H13) のトリ由来インフルエンザウイルスに対するブタの感受性を検討した.
驚くべきことに,H1〜H13いずれのHA亜型のウイルスの中にもブタの呼吸器で増殖する株が見いだされた.
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引用文献
- 喜田宏 (1993) : 新型インフルエンザウイルスの出現機構
化学と生物, vol.31(3), 1993. pp.154-162.
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