- 菊池聰『なぜ疑似科学を信じるのか』
pp.120,121.
認知的不協和理論では、信念を変えさせるためには「まず、行動させること」が大切だという。
一度してしまった行動はもはや変更不能だが、信念は行動と一貫する方向へと変わることで不協和を低減できるからだ。
ここからも、疑似科学にのめり込む業者やユーザーの行動が見えてくる。
たとえば、ちょっと不審だけど興味をひかれる疑似科学商品があったとしよう。
優秀なセールスマンは、その疑念を理屈で解きほぐすよりも、まず「とにかく一度試してみてください」と、行動を促す。
それも、その効能をブログやSNSなどで「他人に向かって説明」させるとさらによい。
これは単なる宣伝効果だけではない。
重要なのは、他人とかかわると、自分の言動にさらに取り消しがききにくくなるからだ。
同じように、補完代替医療の一部で問題となる「通常の医師の治療や投薬を拒否」という指示は、ハードルの高い行動をとらせることで、信念を自説に好意的な方向へ変更させ、さらに信じ込ませる働きをする。
「医者に見切りをつけたのだから、この療法はすばらしいものでなければならない」というように。
このように、一度難しい行動をさせてしまうと、その行動と一貫するように信念のほうが変容する現象は「入会儀礼効果」と呼ばれる。
これはマインドコントロールの技法としても有名だ。
たとえば,ある種のカルト教団では,信者を劣悪な環境下での販売活動や個別訪問に従事させる。
すると,その教団に対する忠誠心は,さらに強固なものに変わっていく。
理不尽なことでも他人を巻き込んだ活動を行ってしまい、それは取り消せないというのがポイントだ。
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- 参考Webサイト
- 参考文献
- 菊池聰『なぜ疑似科学を信じるのか──思い込みが生み出すニセの科学』, 化学同人, 2012.
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