Up 「真言」を立てる 作成: 2018-06-07
更新: 2018-06-07


      難者の曰く、
      「若し然らば、前来の法匠、何ぞ斯の言を吐かざる。」
      答う。
      「聖人の薬を投ずること、機の深浅に随い、
       賢者の説黙は、時を待ち、人を待つ。
       吾れ、未だ知らず、蓋し言うべきを言わざるか、
       言うまじければ言わざるか。
       言うまじきを之を言えらん失、智人、断りたまえまくのみ。」
                  (『般若心経秘鍵』)

    空海のこの優位意識は,何によるのか。
    空海の他に梵語テクストを取り上げることのできる者がいないことである。
    梵語テクストを取り上げれば,空海の独壇場になる。
    (空海は,唐に渡って梵語を習う機会を得た。また,梵語の資料を持ち帰ることができた。)

    こうして,梵字悉曇を見せつけるスタイルの教義をつくることになる。
    生の梵字悉曇を示して,「真言」にする。

    ひとにはもともと文字霊信仰の傾向がある。
    見知らぬ文字が書かれた紙切れが出て来たら,これを気味悪がったり,神棚に上げたりする。
    空海の「真言」は,ひとのこの性向を利用したものである。