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宮原 (2014), pp.70-72
南極大陸は、3000メートルを超える山々が連なった地形になっていて、その谷間に雪が降り積もり、夏の間も融けずに万年雪になったものが層となって積み重なっています。
つまり、3000メートルを超える氷の地層が残されているわけです。
積もった雪は、ある程度積み重なると重みによって圧縮されて、気泡のほとんどない氷となっていきます。
これを、ドリルで掘削して50センチメートルほどの長さのコアを取り出してはまた掘削して‥‥‥というような方法で、50センチメートル単位でどんどん掘り進めていきます。
氷の地層の一番下のほうから掘削されたコアは、表面を磨くと水晶のように透きとおっていて、氷が確かに水という物質の結晶なのだということを実感させられます。
氷の地層は自分自身の重みでかなり圧縮されていますので、全体の3000メートルでは100万年程度の氷の層に相当します。
日本では、国立極地研究所が中心となって、氷の掘削を進めています。
2006年には、72万年を超える氷の層の掘削に成功しました。
この南極の氷に含まれているのが、「ベリリウム10」という同位体です。‥‥‥
ベリリウム10の場合は、大気中に浮遊する微粒子にくっついて移動していくことになります。
そして、いずれ雪や雨の一部となって地表に落下します。
それが南極では融けずに積み重なっていくというわけです。
氷の場合、木の年輸のようにはっきりとした目印があるわけではありませんので、-年ごとの層をきれいに切り分けることはできませんが、それでも宇宙線や太陽活動の変動を何十万年分も知ることのできる貴重な試料となっています。‥‥‥
氷のコアは直径10センチメートルほどで通常は1本しか掘削できませんので、氷を短冊切りにして各研究グループでさまざまな成分を分析していきます。
炭素14やベリリウム10を使って過去の太陽活動を調べる際に気をつけなければならないことがひとつだけあります。
どちらも、「放射性同位元素」と呼ばれる元素で、原子核が不安定なために、時間とともに崩壊してほかの元素に変わってしまう性質を持っているということです。
たとえば炭素14の場合は、年輪などの中に含まれる量がA個だったとすると、5730年経っとそれがA/2個に減ってしまうのです。
この半分に減るのにかかる年月は「半減期」と呼ばれています。
原子核がどれくらい不安定かによって半減期が長かったり短かったりします。
ベリリウム10の場合は、約140万年で半分に減ります。
半減期の10倍ほどの年月が過ぎてしまうと、放射性同位元素はほとんどが崩壊してしまって、測定できなくなります。
ですから、半減期のおよそ10倍程度が、さかのぼれる年代の限界です。
炭素14を使う場合には、だいたい5万〜6万年ほど、ベリリウム10を使う場合には1400万年ほど昔までしかさかのぼれないということになります。
そして、測定したデータから当時の宇宙線量を推定する際には、半減期によって時間とともに減少しているぷんを上乗せする必要があります。
このようにして、過去にどれくらい宇宙線が増えていたのか、あるいは減っていたのかということを正確に推定するのです。
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同上, pp.101,102
樹木やサンゴの年輪と違って、氷には明確な1年単位の縞がありませんので、層ごとの年代を決めるには少し工夫が必要です。
表層に近い過去2000年分は、年代が知られている火山噴火や宇宙線の増加イベントを基準にして決めます。
古い時代については、比較的正確に年代を調べやすい湖や海洋の地層から得られたデータと対比して決めたり、「ミランコピッチ・サイクル」などの天文学的なシグナルの検出などから年代を推定することが可能です。
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引用文献
宮原ひろ子 (2014) :
『地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか』, 化学同人 (DOJIN選書), 2014.
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