!本稿に記載の内容は2013年10月時点での情報です
新聞やテレビで温暖化のことを目にする機会は以前に比べて減ったように感じます。温暖化は確かに大事な問題なのだと思いますが、一時的に騒いだり、また報道が目に見えて減ってしまうのは、流行現象だと思われても仕方がないのではないでしょうか。
青柳みどり 社会環境システム研究領域 環境計画研究室 主任研究員(現 社会環境システム研究センター 環境計画研究室長)
マスメディアは、日々の中で最新の情報を伝えることを重視する傾向にあるので、大事な問題であっ ても、報道が減ってしまうことはよくありますね。しかし、報道されていることだけが世の中で重要な問題というわけではありません。日々の継続的な取り組み が必要なことは多くあり、温暖化もそのひとつです。温暖化対策を進めるためには、産業部門だけでなく家庭部門、つまり国民一人ひとりの行動が必要です。新 聞やテレビでの報道が減って、「騒ぎ」は収まったように見えますが、家庭部門からの温室効果ガスの排出の増加は止まっていません。皆さんに温暖化問題を 知ってもらい、対策行動をとっていただくには、温暖化の原因・影響・対策などについてさまざまな手段でお知らせすることが必要です。それは、温暖化問題に ついて、誤解や知られていないことがとても多いためです。また、このようなキャンペーンを続けることによって、一時の流行では終わらせないようにすること ができるでしょう。
日本国内のいくつかの自治体では2020年あるいは2030年を中期目標として、二酸化炭素(CO2) 排出量を現在(または1990年、2005年)のレベルから大幅な削減をする計画を策定(もしくは既に策定した計画の改定作業を)しています。これはEU 諸国をはじめ、世界的な動きでもあります。これらの計画を実現するためには、産業部門だけでなく家庭部門、つまり国民一人ひとりの行動が必要となっていま す[注1]。国民一人ひとりが有効な対策行動をとれるようにするためには、温暖化の原因・影響・対策などについて知ってもらうことが必要です。
筆者らが実施した無作為抽出による全国成人を対象とした世論調査[注2]で は、「最近、地球上の気候が変化してきている」と感じる人々は95%(2008年)、90%(2013年)にも達していますが、その原因や影響について は、誤解している人が実に多いのが現状であることがわかりました。たとえば、「大気汚染」「オゾン層の破壊」や、「石油や石炭が大気に放出されること」な どが原因と思っている人がとても多いのです(図1)[注3]とはいえ、「地球が温暖化している」ことが原因と考える人は、2008年には4.5%であったのが、2013年には39.3%に上昇しています。
注)このデータは2008年1月、2013年2月筆者作成(地球環境研究総合推進費H-052、1ZE-1202で実施)。 2008年は、全国2000名の成人男女を対象とした専門調査員による個人面接調査の結果。有効回答数1301名。2013年はサンプル3000名で有効 回答数1121名(有効回収率37.4%)。専門調査員が、選択肢の書いてあるリストを示して設問と選択肢を読み上げ、回答者にリストの中から答えてもら うという方法をとった。
どんな間違いが多いのかについて、一般の人に座談会形式で聞いた時[注4]の 結果を挙げましょう。図1で、地球上の気候が変化してきている原因が「オゾン層の破壊」とする人が50.1%(2008年)、45.1%(2013年)に も上っています。これについては、「フロンガスによってオゾン層が破壊されると、地球上に到達する太陽光が強く(多く)なって、地球が今まで以上に暖ま る」ということを原因としてあげる人が男女・年代を問わず多くみられました。しかし、現在の知見によれば、その効果はとても小さくて、温暖化の傾向を説明 できるほどではないのです[注5]。
温暖化対策についても同様に知られていないことが多くあります。国際交渉を含め温暖化対策についてのさまざ まな組織や約束事に関することは非常に断片的にしか報道されてきませんでした。たとえば、京都議定書や京都議定書に関する議論からのアメリカの離脱といっ たトピック的に日本国内で大きく報道された事実についての認知度は高いのですが、京都議定書の内容やその後の日本国内で整備された温暖化防止に関する法 律、削減目標値、東日本大震災の影響(たとえば、原子力発電所の停止による影響)のことなどについての認知度は低いのです。また、一連の温暖化についての 科学的なとりまとめ役となっている気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)の存在やその役割、成果などについてもほとんど知られていません[注6]。
部門別の温室効果ガス排出量割合についても同様です。筆者らの座談会形式での聞き取りでは、「温暖化の原因のほとんどは企業、工場にあるのではないか。一般の家庭で対策をする必要があるのだろうか」との質問がありました。確かに、部門別のCO2排出量割合をみると、エネルギー産業や製造業が圧倒的に多いのですが、家庭部門からの排出も年々増加しています[注7]。さらに、家庭部門での需要の変化が製造業の対策に大きな影響を与えるということもあります。家庭部門で環境を考えた購買行動をすることにより、今以上に企業も環境を配慮した製品を生産するようになり、社会全体でのCO2排出削減につながります[注8]。
今の私たちの生活をそのまま続けていったらどうなるでしょうか。答えは、「将来の人たちに限られた選択肢しか残せない可能性が高くなります」[注9]と いうことになります。ならば、私たちのニーズを満たしながら、将来の人たちにも必要なニーズを満たす可能性を残すにはどうしたらいいのでしょうか。その一 つの方法は、私たちが今の生活を見直して「より効率的な社会」を築いていくことです。具体的には、地域での住宅や各種施設の配置や移動手段のデザイン、住 宅における基本設備のエネルギー効率の上昇などがあります[注10]。
しかし、それ以前に大きな問題もあります。一般の人々に座談会形式で話を聞いたときに、意外なことがわかり ました。「温暖化について興味をもって調べようとするほど、温暖化否定の話に突き当たる」ということです。書店では、「温暖化などは嘘だ」という本が、来 店した人が手に取りやすい位置に並べられています。図書館でも検索するとこのような本が多く出てきます。インターネットで調べると、さまざまな人がお互い に矛盾する事柄を書き込んでいます。つまり、興味をもって調べようとした人が、最新の科学的見解に到達しにくい状況になっているのです。最新の科学的知見 について知るための手がかりを知っておく必要があるのです。その手がかりは、常に新聞記事などで最新の国際的動向や科学的知見についての知見を確認してお くこと、図書館や書店で手にした本ができるだけ新しい知見を取り扱っているのかを確認して、できるだけ原典(おおもとの本や論文、インターネットのサイ ト)を確認し、孫引きなどで終わらせないこと、などです。
現在、環境省では「Fun to Share」のような国民運動を行っていますが、このようなキャンペーンを続けることによって、「温暖化」についての関心を一時の流行に終わらせないこと が可能でしょう。同時に、温暖化問題についての科学を解明する研究者は自分たちの研究成果をどう世の中に伝えていくのか、きちんと戦略をたてて臨む必要が あります。「流行りごと」としてとらえられるようなアプローチが果たして有効なのか、再考の余地はあるでしょう。